午後3時半
とても短い話があります。
久野 cube330@yubin.co.jp
[ ジョウロ ]
今日はジョウロが見つからない。
風で飛ばされたのかもしれないと思う。
いや、と首を傾げた。
昨日風の音は聞いていない。
花壇の土はしらじらと乾いて、少し不安に思う。
よりにもよって暑い日なのだから。
水が汲める物を探して家に入った。
今日はとにかく。
新しいジョウロを買うか考えなくてはいけない。
ふと気がついて外を見ると雨が降っている。
ああ、だから今日は
ジョウロが見つからなかったのだと気がついた。
[ 風船 ]
イルカの風船が飛んでいく。
真っ直ぐ前を見て飛んでいく。
これは海へ行くに違いない。
追いかけようと思う。
上を見ながら走るものだから
人にぶつかるし段差につまづく。
怒られて怪我をして
それでもなんとか追いかける。
足がふらついて胸がきりきりと痛む頃
ようやく海が見えてきた。
ずっと青いところへイルカの風船は飛んでいく。
私は真っ直ぐ立って手を振った。
それは長い間。
[ 空 ]
空が青い理由を考える。
きっと何かしら理由はあるのだと
青い空を見上げて思う。
ふと
海も青いということに気がつくけど
それきり考えが進まない。
考え込んでいるうち
いつの間にか眠ってしまったらしい。
目を覚まして見上げてみれば
空はすっかり夕暮れだ。
やられた!
立ち上がって
赤く染まった空をきりりと睨んだ。
[ 傘 ]
傘を広げて雨を待つ。
雨はいつかは降るものだから
そう気にしてはいないけど
ただ待つというのは不安でもある。
頭上は晴天で
雲はといえば、あんまり遠くにあるので
いっそ雲の下まで歩いていこうかと思う。
地面に小さな芽が出ているのを見つけたので
近づいて芽のすぐそばに立つ。
こうして芽の隣にいれば
雨が降らないということはないだろう、と
安心して傘をくるくる回した。
ああ、しかし
と思う。
実際に雨が降ったなら
傘を閉じないと、芽に雨が降らない。
でもこっちは傘をさしていないと
濡れてしまうのだからしょうがない。
どうしたものだろうと
傘を閉じたり広げたりして
遠くに浮かぶ雲を見つめた。
[ 海 ]
海を離れて暮らしてみた。
それは思ったよりも寂しくなかった。
思い出すことがないからといって
きっと悲しむことはない。
海を忘れることはないのだから。
海への道ももうわからないけど
それも心配はしない。
ずっと真っ直ぐ歩いていれば
いつかはきっと海に着く。